皮膚には様々な腫瘍が生じます。皮膚の表面にできるもののほかに、皮膚の下にできるものもあります。このように、できる場所による違いの他に、大事な分け方として良性腫瘍と悪性腫瘍という分け方があります。
良性腫瘍としては下記のようなものが代表として挙げられます。
ほくろ | 粉瘤 | 脂肪腫 |
類皮嚢腫 | 石灰化上皮腫 | 異物肉芽種 |
耳下腺腫瘍 | 顎下腺腫瘍 | 副乳 |
一方、悪性腫瘍としては下記のようなものが代表として挙げられます。
基底細胞癌 | 扁平上皮癌 | ボーエン病 |
ベーチェット病 | 乳房外パジェット病 | 悪性黒色腫 |
軟部悪性腫瘍 | - | - |
良性腫瘍と悪性腫瘍により、治療方法は異なります。
良性腫瘍の場合には基本的な治療はできものだけを摘出する手術になります。できものの種類や大きさによって、局所麻酔で出来るものから全身麻酔を要するものまで変わってきます。
一方、悪性腫瘍の場合には、放置した場合は局所で進行して増大するため、早めに病気の部分を正常な部分を含めて、大きく切除することが必要です。切除後にはできるだけ変形が生じないように、各種再建手術を行うことがあります。悪性腫瘍の疑いの場合、対応できる病院へのご紹介をさせていただきます。
体中の何処にでも出来る良性の皮下腫瘍です。多くは背中や項、顔の頬や耳たぶなどにできて、俗に『脂肪の固まり』などといわれています。半球状の固まりとして触れ、真ん中にやや黒っぽい開口部が見られることもあります。皮膚に密着して周りより硬く触れます。
発生の原因は、判らない場合が多いのですが打撲や外傷などの後に起こることやニキビ痕にできることもあります。皮膚の上皮成分(表皮や外毛根鞘)が皮内や皮下に落ちて袋を形成し、その中に粥状をした垢や脂が貯まってできた固まりです。
あまり大きくならず自然に無くなることもあります。しかし、多くは放っておくと徐々に大きくなり野球のボールほどになることもあります。時には細菌感染を起こして急にその大きさを増し、赤く腫れて痛みを伴い『おでき』と間違われます。皮膚が破けると膿汁と臭い粥状の固まりを排出します。赤く腫れているときに膿を出そうとして無理に圧迫すると、袋が破れて脂肪織内に散らばり膿皮症という状態になる場合があり慢性化することもあります。無理に圧迫し内容物を排出することは避けて早めに医師に相談し薬の服用と処置を受けてください。
感染のない場合は手術的に摘出します。腫瘍の直径の1~2倍の長さで開口部を含めて紡錘形に皮膚切開をして内容物を袋ごと摘出し、皮膚縫合した後の傷をシワに沿わしたり、くさび形に切除したりして出来る瘢痕を目立たなくします。時には顔面の場合など傷をより綺麗にするために、開口部の皮膚と内壁をくり抜いて内容物を排出した後に嚢腫壁を摘出すると、腫瘍の大きさに比べて傷が小さく目立たなくできます。
感染のある場合、それが軽い場合は、抗生剤や抗炎症剤の投与で鎮静化させてから摘出します。感染が高度の場合は、一度、切開・排膿して開放治療(軟膏治療)を行い、傷が落ち着いた後、期間を置いて摘出します。しかし、感染のない場合に比べて治療期間が長くなり、キズ跡も劣ります。
いわゆる「ホクロ」です。一般的には大小さまざまで平坦なものから盛り上がったもの、黒いものから茶色(褐色)のものまであります。生まれつきからあるものからあとで出現することもあります。また生まれつき皮膚のかなりの部分に色素性母斑がひろがっている場合には、巨大色素性母斑と呼ばれます。
色素性母斑は母斑細胞が表皮と真皮の境目もしくは真皮の中に存在して、メラニン色素を作り出すために、褐色ないし黒色に見えます。時には毛が生えたり表面がでこぼこすることもあります。
小さな色素性母斑は悪性化することはあまりありませんが、巨大色素性母斑は悪性化する可能性があるともいわれているため、適切な観察や治療が必要です。また一般に足の裏や手のひらのほくろも悪性化しやすいと言われますが、それほど頻度は高くありません。
ただホクロがいつのまにかできて次第に大きくなる、色の濃淡がある、形状が左右対称でない、境界が不明瞭、傷ができて治らない、などは悪性化の可能性があるため、早めに形成外科を受診してください。
年齢、母斑の大きさ、手術方法によっては全身麻酔が必要となります。
直径数mmまでの小さなほくろはレーザー(炭酸ガスレーザー)でほくろ全体を焼き取る方法や、メスまたはパンチを使ってくり抜く方法が一般的です。悪性化の心配がある場合はくり抜いた組織を病理検査します。くり抜いたあとは通常は縫合せず、傷が自然に治るまで約2週間軟膏治療を行います。治った直後は赤みのある傷跡になりますが、徐々に色が薄れ数か月経てば目立ちにくくなります。
数mm以上の場合は紡錘形に切除して縫い合わせる方法が一般的です。さらに大きい場合は、2、3回に分けて少しずつ切り取って縫い寄せる方法もあります。縫い寄せるのが難しい場合、周囲の皮膚を移動(局所皮弁)して傷をふさぐこともあります。局所皮弁でふさぐことができない場合は、皮膚移植(植皮)しますが、移植した皮膚と周囲の皮膚とは少し色合いが異なるので手術後の整容性はやや劣ります。
巨大色素性母斑では何回かに分けて切除したり、レーザー治療を行ったりします。入院が必要になることもありますので対応できる病院へのご紹介をさせていただきます。このように母斑の治療はその大きさにより様々な選択肢があります。一部の治療には保険医療の範囲で可能な治療ですが、保険適応外のものがあります。詳しくは形成外科担当医にご相談ください。
脂肪腫は、皮下に発生する軟部組織の腫瘍の中では最も多くみられる良性の腫瘍( できもの)です。脂肪腫には、皮下組織に見られる浅在性脂肪腫と、筋膜下、筋肉内、筋肉間に見られる深在性脂肪腫があります。普通は、成熟脂肪組織で構成される柔らかい単発性腫瘍ですが、稀に多発性することがあります。
発生時期は幼少時と考えられていますが、緩徐に発育するため発見は遅く、20歳以下には稀で、40~50歳代に多く見られます。男女比は報告により一定しませんが、女性に多いとされ、また、肥満者に多いとも言われています。
身体の各部に発生しますが、背部、肩、頸部などに多く、次いで上腕、臀部、大腿などのからだに近い方の四肢に多くみられます。顔面、頭皮、下腿、足などは比較的まれです。大きさは数mm径の小さなものから、直径が10センチ以上に及ぶものまでいろいろです。通常、痛みなどの症状は無く、皮膚がドーム状に盛り上がり、柔らかいしこりとして触れます。
診断は、臨床症状と、画像検査で行います。画像検査にはエコー検査、CT検査、MRI検査があります。区別を要する疾患として、皮膚由来の嚢腫や軟部組織の肉腫(悪性腫瘍)などがあります。画像上、悪性の分化型脂肪肉腫と鑑別が困難なこともあり、摘出し、病理組織学的検査を行った方が良いこともあります。
脂肪腫自体は肉眼的には周囲との境界ははっきりとして、薄い被膜をかぶり割面は淡黄ないし、橙黄色を示し、多脂性です。ある程度以上に大きいものは不規則な小葉構造をとります。
病理組織学的には成熟した脂肪細胞からなり、一見正常脂肪組織と区別がつきにくいですが、細胞は多少大きさ、形状に不同があり、正常よりやや大きいとされます。薄い結合組織性の被膜があり、結合組織性の隔壁により小葉に分かれています。
血管成分が多いものは、血管脂肪腫と称され、最大径が1~2センチと小ぶりで、しばしば多発します。
脂肪腫に対する治療法は手術による摘出です。
摘出術では、腫瘍の直上を、ほぼ腫瘍の直径に一致するように切開し、被膜を破らないように周囲組織から剥がして、摘出します。摘出後は、血腫(血が溜まる)を予防するため十分に止血し、必要に応じてドレーンを挿入、圧迫固定します。
巨大な脂肪腫では脂肪吸引法も適応となることもありますが一般的ではありません。
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